2021-03-27

架空の街/狩野 萌/Megumi Kano

両親はすでに他界し、誰もいなくなった僕の実家。長年の友人が泊まりに来た。彼女ではない。よく会う友人でもない。連絡もあまり取らない。でもなぜか、波長が合う。東京という街に嫌気がさした僕たちは、誰もいないこの家で二日間だけ過ごしてみることにした。朝は起きない。なにもやらない。好きなときに食べる、寝る。お互いがお互いの存在を意識せず、透明人間のように、だけれどなにか温かいものを感じつつ、48時間を過ごした。 
あっと言う間の二日間。彼女は駅の改札で「短かったね」と言い、吸い込まれそうなほど美しい瞳で僕の顔を見つめた。その瞬間、僕の中になにかが芽生えた。ただ、その“なにか”を抑え「そうだね」と言い、続けて「仕事をやめたら、もっと泊まりにきなよ」と。そう言うのが精いっぱいだった。彼女は笑って「そうする」と言った。そして、改札の中へ消えて行った。最後までその背中を見つめながら、僕はまた一人に戻った。

関連記事